自死遺族となり、大きな悲しみや苦しみの中にいる人に対峙すると、善意で「何とかしてあげないと」「回復への道を探してあげないと」「客観的な視点でアドバイスしないと」と思ってしまいがちです。

しかし、それは違うよ、という話をさせていただきます。

 

他人の「アドバイス」など聞きたくはない

アドバイスという意味をGoogleで調べると「助言。また、忠告や勧告」とありました。助言、忠告、勧告というのは、要するに「こうしたほうがよい」「こう考えたほうがよい」というように、行動や思考の変化を促す言動です。

では、なぜ自死遺族に直面行動や変化を促す必要があると感じるのか、というと「これまでの人生で経験したことない大きな悲しみ、苦しみの中にいる」のが明らかだからです。

「苦しみが少しでも減って欲しい」「悲しみを癒すことを何かしてあげたい」と思う家族がやってしまいがちなのが、まさにアドバイスです。

行動のアドバイスはこのようなものです。

  • 家の中にばかりいると、体調が悪くないので外に出て運動でもしたほうがよい。
  • 食事のバランスが悪いので、しっかり食べたほうが良い。
  • 夜はしっかり寝られるように、昼間少しでも活動したほうがよい。
  • 何かできそうなことを毎日やったほうが良い。

そして、思考や精神に関するアドバイスはこのようなものです。

  • 亡くなった故人は、自分の意思で旅立ったのだから、あなたの責任ではない。自分を責めるのはやめて。
  • 亡くなった故人のためにも、しっかりしないと。
  • 悲しんでばかりいると、精神を病むので、精神をリフレッシュしないと。

こうしたアドバイスは善意によってなされます。しかし、ほとんど全て意味のないだけではなく、有害なのです。

辛い状況にいる自死遺族からすると「そんなことは分かっている。でも、動けないから、精神を変えられないから苦しいのだ」というのが本音です。

 

アドバイスするのを我慢して、傾聴する

必要なのは、自死遺族の苦しみを繰り返し聞いて、その辛さを自分の中で再現して、共感することです。傾聴とも言います。

「傾聴」をGoogleで調べると「(耳を傾けて)熱心にきくこと」とあります。

そうです。必要なのは、「耳を傾けて熱心に聞くこと」が先で、「相手を救おうとする使命感から意見すること」ではないのです。

特に男性の多くは、「問題がそこにある → 問題の解決策を考える → 提案する → 試行錯誤しながら問題解決する」と、仕事のように考えてしまいがちです(論理的な問題解決を日々行っているビジネスマンほど、こうした考えに容易に陥ってしまいます)。

ただ、自死遺族の苦しみは感情からきています。論理的に問題解決できるものでもありませんし、客観的、普遍的な解決策があるわけではありません。

よって、まずはアドバイスをあきらめましょう。周囲にいる人が知恵を絞ったところで、光り輝くような解決策が出てくることはまずありません。

解決策を考える代わりに、「アドバイスしなければ」「解決策を考えなければ」という思いを取っ払って、「相手はどのように苦しいのだろうか」という思いで話を聞きましょう。

話を聞いて、その言葉からどのような苦しみや悲しみが背景にあるかを想像し、相手がこのように感じているのだろうな、という思いを再現して、口に出してみましょう。

表面に出ている言葉は、自死遺族の苦しみや悲しみの氷山の一角です。氷山の下には、もっと大きく強い感情があります。

その感情に思いを向け、感じて、そんな苦しみや悲しみの最中にある相手がどれだけ辛いかに思いをはせて共感するのです。

 

例外的に、アドバイスが必要な場面

自死遺族と対峙する際に、基本的にアドバイスは不要です。アドバイスが必要な状況は、以下の2つに限られます。

1.肉体的、精神的状況が平時と比べて、著しく悪化しているとき

このような状況では、客観的に「普段と比べて体調が悪いみたいだから病院に行こう」「薬を飲もう」というアドバイスが必要です。ポイントは「平時と比べて著しく悪い」ということです。

普段から、むやみやたらと、病院とか薬という言葉を出すべきではありません。傾聴に疲れたから、言うことに困って病院や薬を促すのでは逆効果です。

2.自死遺族本人が「アドバイスしてほしい」と言ったとき

普段はアドバイスがほしいと言わないのに、ごくまれにアドバイスを求めてくることがあるかと思います。こうした状況では、アドバイスをしましょう。

ここで大切なのは、二段飛び、三段飛びのような、難しい行動を促すアドバイスをしないことです。

「自死遺族となる前はこうしたことができていた」と、肉体的精神的に好調だった時にできていたことを、そのまま「やってみよう」などと言わないことです。

自死遺族の方の現在の状態を見て、小さな一歩を踏み出すための「小さな行動の変化」を促すアドバイスをしましょう。

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