自死遺族に対して「私だったらはこう思う」は禁句 | シンパス相談室

自死遺族の方の苦しみ、辛さ、もどかしさを聞いて、「どうにかしてあげたい」「助けたい」と思うと同時に、「どうしてこのように考えてしまうのだろう」「自分だったらこうは考えないのに」と思う方は多いのではないでしょうか。

しかし、この「自分だったら」は言ってはいけない禁句です。

 

 

「自分だったら」と思ってしまう構図

父を自死で失った息子と娘、子供を自死で失った父親と母親といった人たちを思い浮かべてみてください。

客観的に見れば、「同じ兄弟姉妹だし」「同じ親だし」ということで、同じような辛さや苦しみがあると思いがちです。

しかし、辛さや苦しさが強く出て、日常を過ごすことが本当に大変になってしまう人もいれば、大変だけれども日常を回せてしまう人もいます。

(日常を回せてしまう人は、「辛さを押し殺している」人もいれば、「本当に辛さをそこまで強く感じていない」人もいます。念のため)

 

ここで例として、父親を自死で亡くした息子(太郎さん)と娘(花子さん)を考えてみましょう。

花子さんは大きなショックを受け、日常生活に大きな支障が出ているが、太郎さんはそこまでの衝撃は受けていない。もちろん、大きなショックは受けているが、会社や飲み会、友人との趣味もこれまでと大きく変わらず行っている。

太郎さんは、兄弟である花子さんが大変な思いをしているのを見て、何とかしてあげたいと思い、花子さんの思いを聞く場を持ちます。

そして、どのような思いを抱えていて辛いのかを理解しようとします。

これに対して、花子さんが「自分はこのようなことが辛い、悔しい、苦しい」と胸の内を吐露しますが、太郎さんは「なぜこれだけ辛い、悔しい、苦しい」かが理解できません。

 

理解できない状況に直面したときに、支える人の話の持って行き方は2つです。

1つは「相手の立場になって考える」、そしてもう1つは「自分の立場から考える」です。

「相手の立場になって考える」ことが慣れていない人や、今回の例の兄弟のような場合は、「自分のほうがうまく乗り切れている=自分の考え方が正しい」と思い込み、「自分の立場で考え」てしまうのです。

 

そして太郎さんはこう言ってしまいます。

「そうか、花子、辛いよな。でも、自分だったらこう考えて毎日を過ごしていて何とか乗り切っているよ」

太郎さんは「自分が考える乗り切る物事の考え方を教えてあげた。花子にもとてもよかっただろう」と思います。

しかし、花子さんは「太郎は自分の考えを言ってくるだけで、私の目線で物事を見てくれなかった」と失望を深めます。

 

 

「100%の善意」であっても、無理解の行動は助けにならない

上記の例の場合、花子さんは「たった一人の兄弟である太郎は自分のことを分かってくれない。いや、分かろうとする気がない。相談しても無駄だ」と孤立を深めてしまいます。

そして太郎さんは「せっかく時間を割いて話をしたり、アドバイスしたのに花子は理解したり行動する気がない。これ以上話しても無駄だ。あとは専門家の領域だな」と思い、ある意味「見放して」しまうことさえあります。

このように、いくら太郎さんが善意があって取った行動であっても、相手の目線で理解しようとせずに、「自分だったら」と言い続けているのでは、時間を割いて話を聞いたり話をしたりしても、助けにはなりません。ひどい場合だとむしろ有害になることもあります。

  • 「同じ兄弟で、同じ状況なのに、自分はこうやって頑張っている。君は甘えているだけだ」と責める
  • 「僕にできることは何もないので、後は医者やカウンセラーにでも行けば」と言い、これ以上助けようとしない
  • 話には付き合うが、実際は聞き流しているだけで、全く共感する気がない。時間を割いて話を聞いたという「形」があれば、それで役に立ったと思い込む

もし、あなたがこのような行動をとっていると自覚するのであれば、いますぐ修正すべきです。

 

 

苦しみを同じ質量で受け止め、今日生きてくれていることに感謝する

先ほどの太郎さんと花子さんの例をもう一度引っ張り出しましょう。

太郎さんはどうすればよかったのか。それは「自分だったら」という前提を全て捨てて、「花子さんの苦しみ」に目を向けて、花子さんが感じる重さで苦しみの質量を受け止め、理解しようと努力し、共感することがスタート地点です。

言葉を並べるだけでなく、心から共感したうえで、「そうか。それだけ苦しいのか、悔しいのか、辛いのか」というだけでも花子さんはずいぶんと救われます。

 

そのうえで、そんな苦しい日常を送っている花子さんに「苦しみに耐えて生きてくれてありがとう」と感謝を伝えてはいかがでしょうか。

自死遺族の苦しみは「自分も自死したくなる誘惑」「朝起きると絶望が待っている」「救えなかった自分をひたすら責める」といったもので、これまでの人生で最も辛い体験だったという人がほとんどです。

そんな苦しみを四六時中抱えている人に対しては、人と比較されたり、立ち上がれない自分を責めたり、絶望したりという感情の中で暮らしています。

少しでも良い感情、暖かい感情が伝わるように思いを伝えましょう。

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