早く遺品を整理することはよくない結果を招く

家族が自死してしまった。家には残された遺品がたくさん。衣服、置物、食器、身につけるもの、化粧品、電化製品などなど。

どれを見てもなくなった家族を思い出してしまう。そして、目に入れるたびに辛い思いがこみあげてくる。泣いてしまう。感情的に不安定になってしまう。体調が悪くなる。

こういう思いに駆られる自死遺族は多いのです。そして、こうした辛い家族、知人、友人、親戚を目にする人は善意からこのように思ってしまいがちです。

「そうか、遺品を見るから辛いことを思い出すのか。辛くても遺品は早く整理したほうが楽になるのではないか」
「いっそのこと全て捨ててしまったほうがよいのではないか」

しかしこれらは全て間違いです。結論から言うと、「遺品整理を急かすと間違いなく良くない結果を招きます」。

 

冷静でない状況で整理すべきでない

10歳の時に、自死で父親を亡くしたミュージシャンのYOSHIKIさんは、父の自死の直後に家の中から父親の痕跡が全て消されて、父がいなかったものとして扱われるようになった、と言っています。

YOSHIKIさんは1965年生まれなので、2018/3現在、52歳なのですが、インタビューに出て父親について、当時の自分を振り買って話すときに未だに涙を流すことがあります。

このケースだと、自死で一番衝撃を受けたのはYOSHIKIさんである可能性が高いのに、十分なケアを受けられなかっただけでなく、遺品も強制的に全て片付けられてしまったのです。

もちろん、当時は自死遺族に対して十分な配慮や知識がない時代でしたので、ご家族を責めるつもりは全くありませんが、事実としてそうだったわけです。

そして、21世紀の現代でも、自死遺族は「善意から」これと同じことを言われることが多いのです。

例えば、子供を自死で失った夫婦のうち、より精神的なショックが大きい妻に対して、夫が「遺品を見ると辛くなるだろうから、頑張って整理しよう」と切り出してしまうのです。

それも、自死が起こってから数週間、数カ月のうちにです。夫からすると、「何とか妻に早く立ち直って欲しい、辛い思いが少なくなって欲しい、遺品が原因の一つであるならば心を鬼にして整理してしまったほうが長期的に良いのではないか」という妻に対する思いがきちんとあるのです。決して嫌がらせのつもりではありません。

しかしながら、大きな心的ショックを受けた状態で遺品を整理しようとすることは、よい選択ではありません。

その理由は「精神的に不安定な状況で整理すると、一緒に整理する他の人の意見に押し切られる」からです。

例えば「辛い記憶を呼び起こすのであれば、全て捨ててしまったほうが良い」といった意見です。

冷静な判断力がない時には、そうした意見も正しいのかなと思ってしまいがちですが、後から「全て捨ててしまわなければよかった」と思っても、もう遅いのです。取り返しがつきません。

取り返しがつかない、ということは、自死遺族としてのダメージからの回復を長引かせることになります。

なので、自死遺族として最も苦しんでいる家族の近くにいる方は、遺品整理を急かさないでください。

たとえ一番苦しんでいる家族が「全部捨ててしまいたい」といっても、「いったん落ち着いてからまた向き合おう。いったん棚上げにしておこう」と、言ってあげてください。

 

遺品整理には年単位かかる覚悟を持つ

自死遺族の苦しみから回復するには何年かかるでしょうか。

自死遺族としての強い苦しみ、悲しみは一生なくなることはありませんが、「自分のことを自分でできるようになる」「日常生活を営めるようになる」というレベルの回復であれば、早い人で数カ月、長い人だと数年というのが一般的ではないでしょうか。

遺品整理を行うのは、この数カ月、または数年という最初の一段階回復してからにすべきです。

そして、周囲の家族が「早く遺品整理をしよう」と急かすのではなく、本人が「遺品整理をしたいと思う」と言ってくるまで待つのがよいでしょう。

周囲からの圧力が全くない状態で、「遺品整理をしたい」と言ってくるのを待つわけなので、周囲の家族からすると「いったいいつになったら遺品整理を始められるのか」という思いに駆られることもあるかと思います。

自死で亡くなった家族がいなくなった後も生活は回っていて、収納スペースが必要になったりすることもあります。

ですが、ここはぐっとこらえて、遺品整理についてはあれこれ言うのはやめましょう。

また、本やネットなどで読んだ知識を元に「普通はXカ月くらいで遺品整理できるらしいよ。2年も経過したのにまだ遺品整理できないなんて」といった「他人との比較」もやめましょう。

苦しみや悲しみの深さ、そしてそれがどのように症状として出るかは人によって違います。

遺品整理に時間がかかるからといって、回復が遅い、回復のために努力していないというわけでは全くありません。

言及せず、責めず、急かさず、他人と比較せず、じっと待ちましょう。

シンパス相談室 | お問合せはこちらから