若い時代を一緒に過ごした友、かつて職場が一緒だった友、近所に住んでいてよく会う友。
「またね」といって別れた後に、また近いうちに会えることを疑っていない。
しかし、事故などで友人は突然に旅立ってしまった。
こんな状況に直面した自死遺族についての話です。
自死遺族は「感情の皮」が薄くなっている
突然の友人の死は、誰にとっても辛いものです。
本当に亡くなったことが信じられないし、またいつでも会えるような気がしてならない。実感がないし、そして「実感を『感じたくない』」という気持ちもある。葬儀に出ても、友達の死ではなく、なんだか別なものに直面しているような気がする。
しかし、あるタイミングで「友人が亡くなった」ことが実感できるときが来ると、「もう会えないことの悔しさ、悲しさ」「過去の美しい思い出」「客観的に見れば自分がどうしようもなかったとしても、防ぐことはできなかったのかという自責の念」が出てきます。
「ご家族はもっと大変な思いをしているのに、葬儀の際はちゃんとされていた。それなのに自分は泣いてばかりいる」とか、「同じくらい親しかった別な友達は大丈夫そうにしているのに、自分は打ちひしがれている」、また「仕事も家事もできなくなってしまった」という方もいるかもしれません。
そして、自死遺族にとっては、この辛さというのは別な重みを持ちます。自死で愛する方を失った後に、自死であってもなくても、再び大切な方との別れが来てしまったという「悲しみの噴出」と、「自死遺族となった後の一番辛い時期の感情に引き戻されるのではないか」という恐れがあります。
自死遺族の方から話を伺うと、「誰かを亡くす」ことに関して感情の皮が薄くなっている方が多いようです。自死遺族になる前に経験する「友人の死」と、自死遺族になった後に経験する「友人の死」では、その重みや辛さが違うとおっしゃる方もいます。
辛さに対する特効薬はないが、話すこと、話をきいてもらうことはできる
自死遺族の辛さに対する特効薬がないのと同じで、自死遺族が新たに友を失ったときの特効薬はありません。過度の不眠や食欲不振など、健康状態が著しく悪くなる場合は病院に行くべきですが、それ以外の場合は病院に行っても対処の仕様がなかったり、安定剤のような薬を出される以外に何の対処もないことが多いようです。
ここでできることは「自分の感情を話すこと」と、「それを誰かに聞いてもらうこと」です。
例えば、昔からの大切な友人を事故で亡くした女性が、夫に「自分はどう辛いか。何か悲しいか。どういう感情が噴出しているか」を話すことです。
友人は亡くなられているので、話しても状況が変わることはありません。しかし、自分で何が辛いか、何が悲しいか、今何を思っているか、何が悔しいのかを、思ったままに話すだけで、心を落ち着けることができます。順序立てて話す必要もありませんし、話している内容に矛盾があっても問題ありません。思っていることを、思ったままに話す。それを聞いてもらい、辛さや悲しさを理解・肯定してもらうことに価値があります。
話を聞くときの注意点
辛い状況にいる家族や友人の話を聞く人は、以下の3点に気を付ければ、話し手の感情をいたわる助けになります。
- 「こうしたほうがよい」という手段や方法に関する助言、アドバイスをしない
- 「自分だったらこう考える」という考え方や精神の持ち様に関する助言、アドバイスをしない
- 「それは違うと思う」といった内容に関する指摘や反論をしない
良かれと思って、助言やアドバイスする人の多くは、「自分自身が自死遺族になった後で、友を失った経験もないのに、自分だったらこう考える」的なアドバイスをしたがります。しかしこれは、「パイロット免許がない人に、操縦のアドバイスをする」ようなもので、意味がないだけでなく、逆効果です。「楽になるような考え方ができるなら、もうとっくに楽になっている。そう考えられないから辛い」のです。
また、話している内容の矛盾点を尋ねたりすることも無意味です。話した内容をまとめて出版するわけではないのですから、始めに言っていたことと、後で言っている内容が違ったとしても別に問題はありません。また、例えば「亡くなった友人と一緒に、自分も旅立ってしまいたい」という発言に対して、「そんなことを考えるなんておかしい」「家族や子供がいるのに」と正論で反論することにも意味がありません。話している相手は、「どれほど辛いか」を分かって欲しくて話をしているのであって、道徳や倫理基準についての話を聞きたいわけではないのです。
「そんなことを口にするなんて、本当に辛いよね。悲しいよね」「あなたが思うことを、100%理解はできないかもしれないけど、どれだけ悲しくて悔しいか、分かるよ」というように、相手がどんな発言をしても、理解を示して受け止める。聞き手が注意して、こうした傾聴を数十分、数時間するだけで、相手はとても楽になる場合が多いです。
支える側は、ここが踏ん張りどころですし、最も頑張るべきタイミングだと思って傾聴に徹してあげてください。