大切な人の自死に直面した自死遺族が、以前と同じような日常生活を営めるようになった際、周囲の人は「〇〇さんは家族の自死から回復した」「立ち直った」と反応する場合があります。しかし、この「回復」「立ち直る」という言葉は、実は適切ではありませんし、大きな勘違いが含まれています。
自死遺族の「回復」についての間違った理解
回復の意味を辞書で引くと、「悪い状態になったものが、元の状態に戻ること」と記されています。
「回復した」と言われる自死遺族は、一見すると、以前と同じ程度の活動・仕事・学業ができるようになっているため、「回復」と言われがちですが、実は全く違います。
自死について理解のない人は、活動的になった自死遺族を見るとこのように想像します。
元の状態から、いったん活動が出来なくなったが、再び「回復して」回復前と同じに戻ったということです。
しかし、自死遺族の多くはこのような「回復」を誰一人として、していません。
活動量だけ見れば、元の状態と同じレベルに戻った、回復したように見えますが、自死遺族の中身は「回復して元の状態に戻った」のではありません。「活動ができるレベルに『自分を作り直している』」のです。
自分を作り直す
大切な人が自死によっていなくなった自死遺族は、多くの精神的困難に直面します。
自責の念、悔しさ、悲しさ、怒り、不安などです。
愛する人がいなくなった、そしてその愛する人が「自分が生きている理由」であったり、「自分が一番多くの愛情を向ける存在」であった場合は、自身の「生」を再定義しなければなりません。「なぜ生きているのか」「何のために生きているのか」といった問いと向き合わねばなりません。
こうした問いに逃げずに向き合い、苦しみながらも自分なりの「回答」を見つけた自死遺族は、再び生に向かいます。
*「回答」という言葉が本当に適切か自信がないのですが、ここでは「回答」とさせていただきます。
たとえ、同じだけの活動をしていたとしても、その方の中身は、苦しみ抜いた末に「新たに作り直されて」いて、過去と同じではありません。
気軽に「回復した」と言わないで欲しい
筆者がこの記事を書こうと思った理由は、自死遺族は努力すれば元の状態に「回復」する、と考える人が多数いるからです。
そこまで関心のない方にとっては、自死遺族が活動できる量が同じであれば「回復」でも「作り直し」でも、同じなのかもしれません。
しかし、その中身は「風邪をひいて、薬を飲んだら、『回復して』体調が戻った」という意味の「回復」ではなく、全く別な場所にたどり着いた「作り直し」であることを知って頂きたいと思ったのです。
よって、自死遺族の方に対して、「回復」という言葉を気軽に使わないほうがよい。そう筆者は思います。