自死遺族の話を聞くときに、話を先回りしない | シンパス相談室

仕事においては先読み力は大切な能力です。しかし、自死遺族と対面してその話を聞くときは、先読み力は無価値どころか、有害なものになりかねません。

以下でご説明します。

 

 

先を読みすぎる=結論待ちになる

先読み力とは、相手が何か発言した際に、その後どのような話の流れになるか、何を発言すればよいかを察知する力です。

仕事においては、社内や顧客のニーズを正しくくみ取って、先回りして対応していくという意味では大切な能力です。

しかし、自死遺族に対峙するときに、この能力を発揮させすぎると「結論待ち」になってしまい、自死遺族の辛さへの共感力が弱まってしまいます。

 

例えば、自死遺族のAさんがが「辛い」と言ったとしましょう。

そして、この話を聞いている方が「自死遺族が辛いというと、特にBについて辛いはずで、Bの辛さはこの原因からきている。そしての辛さの周辺要因を一つずつあげていき、最後はCに対する怒りをぶつけるのではないか。だから、私はCに対する怒りをぶつけた際にそれに共感するのが役目だな」というように、話の流れを先読みしてしまったとします。

話を先読みしてしまうと、Aさんの話は全て、最後の結論にたどり着くまでの「仮説の正しさの証明」になってしまいます。

つまり、話を受け止めるのではなく、自分が立てた仮説が順番に正しく進んでいくかを確認するだけの行為になってしまい、心が動かなくなるのです。

心が動かないと、出てくる発言も薄っぺらいものになってしまいがちです。

 

ちなみに、経験豊富なカウンセラーだったり、高齢で様々な経験を積んできた人であっても、相談相手の話を「自分が考える自死遺族像」に落とし込んで、話を先読みして結論待ちになる人もいます。

経験があるのはよいことですが、経験に依存して色眼鏡で物事を見るのはよくありません。

 

 

できるだけ先入観ゼロで話を聞く

特に初めて話を聞く相手であれば「自死遺族はこうだ」「こういう話になるだろう」といった先入観を持たないことは大切です。

「自死遺族はこういうことに苦しんでいる」という本を読んだとしても、その知識を使って話を先読みしてはいけません。

(なお、こうした本で役に立つのは、『これだけは言ってはいけない』禁句でしょうか)

 

先読みするのではなく、まっさらな状態で話を聞きましょう。

まっさらな状態で話を聞いて、相手の苦しみを自分の中で再現して、辛さを感じる、受け止める、一言一言の発言を頭の中で何度か再生してみましょう。

せっかく時間を割くのであれば、相手の話を楽に「流す」のではなく、相手にとって意味のある時間となってほしい、と思うはずです。

そうであれば、先読みして「楽」をしないことです。

 

 

繰り返し同じ辛さを言う人に、対応するための先読み力はあり

例外ですが、「毎度同じ辛さを言ってきて、毎度同じ対応することが求められている」「対応するのに疲れている」場合は、先読みはありです。

 

例えば、「仕事から帰ってきたら配偶者が毎度同じ自死遺族としての苦しみを言っている。いつも心を動かしていたら支える側の精神が持たない」「毎度同じ反応をすることが安心感につながる」といった場合です。

こうした場合は、相手の話を聞きながら「先読み」して、予定通りの話の流れに対して、予定通りの反応で返すようにします。


 

自死遺族を支える側は、自身の日常を過ごしながら、家族を支えるというある種の「難事業」に挑んでいます。

できることもあれば、もちろん、キャパシティー的にできないこともあります。

ただ、「辛い場面にいる家族が最も求めているものは何だろう」と考えて、自分のキャパシティーと相談しながら、できるだけ真摯に向き合うことをお勧めします。

シンパス相談室 | お問合せはこちらから